研究内容

海野グループ

高度に構造が規制されたケイ素材料の構築 
 シリコーン、あるいはシロキサンマテリアルは、既に広い分野で応用されている。一方で、立体的に多彩な構造が可能なシルセスキオキサン(ケイ素原子が1つの置換基3つの酸素原子が結合した化合物)を、高度に構造を規制して作成することは簡単ではない。当研究室では、これまで、環状シラノールを基軸にして、多くの構造規制シロキサン化合物を合成してきた。
    

特にはしご状構造を有するラダーシロキサン(Laddersiloxanes)については、段階的に環を増やしていく合成法を開発し、それまで3環式のものまでしか知られていなかったが、9環式までを合成し、結晶性がある5環式以下のものについてはX線結晶構造解析で構造を決定した。これにより、一連のラダーシロキサンの構造を分子レベルで明らかにするとともに、数多くの優れた物性についても見出した。1)-6)

1) Review: M. Unno, A. Suto, and T. Matsumoto, "Laddersiloxanes— Silsesquioxanes with defined ladder structure", Russ. Chem. Rev., 82, 289–302 (2013).
DOI:10.1070/RC2013v082n04ABEH004360.
2) M. Unno, A. Suto, and H. Matsumoto, Pentacyclic Laddersiloxane, J. Am. Chem. Soc., 124, 1574–1575 (2002).
3) M. Unno, R. Tanaka, S. Tanaka, T. Takeuchi, S. Kyushin, and H. Matsumoto, Oligocyclic Laddersiloxanes: Alternative Synthesis by Oxidation, Organometallics, 24, 765–768 (2005).
4) M. Unno, S. Chang, and H. Matsumoto, cis-trans-cis-Tetrabromotetramethylcyclotetrasiloxane: a Versatile Precursor of Ladder Silsesquioxanes, Bull. Chem. Soc. Jpn., 78, 1105–1109 (2005).
5) M. Unno, T. Matsumoto, and H. Matsumoto, Synthesis of Laddersiloxanes by Novel Stereocontrolled Approach, J. Organomet. Chem., 692, 307–312 (2007).
6 )M. Unno, T. Matsumoto, H. Matsumoto, Nonacyclic Ladder Silsesquioxanes and Spectral Features of Ladder Polysilsesquioxanes, Int. J. Polym. Sci., 723892 (2012). DOI:10.1155/2012/723892.


反応性置換基を有するケイ素材料構築
上図に示したシロキサン化合物群は高い耐熱性を示すなど、それ自身で興味深い化合物であるが、単分子であるため材料として高分子を用いる場合には適用できない。そこで、上記の優れたシロキサン骨格を有し、反応性の置換基を導入することにより、有用なモノマーとして利用することを目的とした。

オクタシルセスキオキサンの立方体構造に8個カルボキシル基を導入したOctopus7)、Janus Cube8)、Janus Prismの合成、さらに、ラダーシロキサンに反応性のビニル基およびヒドロシリル基を導入することについては既に成功している。特に、8個の置換基を4つずつ対面に配置するヤヌスキューブは、長年合成を試みてきたが、2016年にフッ素を導入した前駆体を用いることで簡便に合成でき、初めてX線構造解析に成功した9)現在は以下に示した種々の骨格を有する反応性シロキサンモノマーの合成に取り組んでいる。   

 

7) H. Liu, S. Kondo, N. Takeda, and M. Unno, Synthesis of Octacarboxy Spherosilicate, J. Am. Chem. Soc., 130, 10074–10075 (2008).
8) N. Oguri, Y. Egawa, N. Takeda, and M. Unno, Janus-Cube Octasilsesquioxane: Facile Synthesis and Structure Elucidation, Angew. Chem. Int. Ed. In press (2016). DOI: 10.1002/anie.201602413.
9) プレスリリース
(群馬大学) http://www.gunma-u.ac.jp/wp-content/uploads/2016/05/280527news.pdf
(産総研)http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2016/pr20160527/pr20160527.html
(NEDO) http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100579.html

ケイ素合成反応の開拓
既存の反応の組み合わせのみでは、合成可能な材料は限定される。当研究室では構造が規制されたシロキサン合成にとって有用な新規反応の開拓についても取り組んでいる。とくに、2種類の置換基を有する原料を触媒を用いて反応させるクロスカップリング反応は、骨格形成のために不可欠であり、新規触媒による新反応を開拓することで、さらに様々な骨格が合成できると考えている。

ケイ素化合物・材料の応用
これらの化合物を用い、ホスト分子10)、色素増感太陽電池11)、リチウム電池材12)、高屈折率材料13)などの開発を行っている。

10) S. Kondo, Y. Nakadai, and M. Unno, Pyrophosphate selective recognition by a Zn2+ complex of a 2,20-binaphthalene derivative bearing di(2-pyridylmethyl)aminomethyl groups in aqueous solution, RSC Adv., 4, 27140–27145 (2014). DOI: 10.1039/c4ra01941e, and references cited therein  (11 related papers. Please also refer Prof. Shin-ichi Kondo, Yamagata University)
11) K. Kakiage, Y. Aoyama, T. Yano, T. Otsuka, T. Kyomen, M. Unno, and M. Hanaya, An achievement of over 12 percent efficiency in an organic dye-​sensitized solar cell, Chem. Commun., 50, 6379–6381 (2014), and references sited therein (10 related papers)  
12) R. Yanagisawa, H. Endo, M. Unno, H. Morimoto, S. Tobishima, Effects of organic silicon compounds as additives on charge-​discharge cycling efficiencies of lithium in nonaqueous electrolytes for rechargeable lithium cells
, J. Power Sources266, 232–240 (2014). DOI:10.1016/j.jpowsour.2014.05.017.
13) H. Endo, and N. Takeda, M. Takanashi, T. Imai, and M. Unno, Refractive Indices of Silsesquioxanes with Various Structures,
Silicon, 7, 127–32 (2015). DOI 10.1007/s12633-014-9239-6.

 

オクタシラキュバンの反応
以下に構造を示したオクタシラキュバンは、歪んだSi-Si骨格を有し、求電子試剤に高い反応性を示す。置換基としてテキシルを有するオクタシラキュバンは、反応性と、極性溶媒中のHPLCにも耐えうる安定性を示す。この性質を利用し、数多くの反応を見出した14,21)

 

総説

14)  海野雅史, シランカップリング剤のメカニズムと将来展開, 色材協会誌,88,5,143–147(2015).
15) M. Unno, "Substituted Polyhedral Silicon and Germanium Clusters", in Functional Molecular Silicon Compounds II, Ed. D. Scheschkewitz, Springer, Heidelberg, pp.49-84 (2014).
16)  海野雅史, 超分子から構造規制次世代材料まで—シラノールが築く新しい化学—, 有機合成化学協会誌, 69, 413–425 (2011). DOI:10.5059/yukigoseikyokaishi.69.413.
17) 海野雅史,近未来材料のシルセスキオキサン, 化学, 65, 10, 68–69 (2010). http://www.kagakudojin.co.jp/book/b73488.html
18) 海野雅史, ケイ素化合物の優れた結合能を利用した表面処理ならびに増感色素への応用, ファインケミカル, 39, 3, 5–12 (2010).
19) 海野雅史, 花屋実,ケイ素を利用した新規色素増感太陽電池の設計,ケミカルエンジニヤリング, 53, 687–693 (2008).
20) 海野雅史,シラノールの水素結合を利用したナノサイズ超分子の形成,ナノ学会会報, 5, 47–51 (2007).
21) 海野雅史, 松本英之, オクタシラキュバンの化学,有機合成化学協会誌, 62, 107–115 (2004).


武田グループ

新規なPS3型三脚型四座配位子を有する10族金属錯体の合成

 近年,三脚型四座配位子を用いることにより,小分子の活性化などの特異な反応性を持つ遷移金属錯体が合成され,その化学に興味が持たれている。しかしながら,1つのホスフィン部位と3つのチオエーテル部位を持つPS3型三脚型四座配位子に関しては,研究例は少なく,その性質には未知の部分が多く残されている。
 本研究では,新規なPS3型三脚型四座配位子1a,bを合成し,そのニッケル(II),パラジウム(II),および白金(II)錯体の合成を検討した。
 硫黄原子上にi-Pr基を有する配位子1aを用いた場合には,対応する10族金属錯体2-5が得られた。X線結晶構造解析により結晶中では,ニッケル錯体2およびパラジウム錯体4は五配位三方両錐型構造を,白金錯体5は平面四配位構造を有していることが明らかになった。1)
 一方,硫黄原子上にt-Bu基を有する配位子1bを用いた場合には,t-Bu基の脱離が進行し,錯体6-8が得られた。2)

1) N. Takeda, Y. Tanaka, F. Sakakibara and M. Unno, Bull. Chem. Soc. Jpn., 83, 157-164 (2010).
2) N. Takeda, Y. Tanaka, R. Oma, F. Sakakibara and M. Unno, Bull. Chem. Soc. Jpn., in press.



新規なSiS3型三脚型四座配位子とその遷移金属錯体の合成

 近年,ピンサー型シリル配位子を有する遷移金属錯体の合成やそれらを用いた触媒反応について盛んに研究が行われている。しかしながら,シリル部位を有する三脚型四座配位子に関しては,1つのシリル部位と3つのホスフィン部位を有するSiP3型配位子が数例報告されているものの,その他の配位子に関してはほとんど報告されていない。
 本研究では,1つのシリル部位と3つのチオエーテル部位を有するSiS3型三脚型四座配位子の前駆体であるヒドロシラン1を合成し,1と種々の遷移金属錯体との反応について検討を行った。その結果,対応するイリジウム(III)錯体2および白金(II)錯体3の合成に成功し,これらの構造を各種スペクトルおよびX線結晶構造解析により明らかにした。また,ヒドロシラン1と[PdCl2(PhCN)2]との反応においては,Si-C結合の切断反応が進行し,2核錯体4が得られることを明らかにした。 

N. Takeda, D. Watanabe, T. Nakamura, and M. Unno, Organometallics, 29, 2839-2841 (2010).

© Unno Lab. 2016