研究内容


 小分子の活性化を指向した新規配位子の開発

 空気の成分である窒素、酸素、二酸化炭素等の小分子を遷移金属錯体を用いて活性化し、有用物質へと変換する研究は、これまでに数多く行われていますが、その研究はいまだ十分とは言えません。そこで我々は、小分子活性化のための新しい配位子の開発、およびこれらの配位子をもつ反応活性な金属錯体の合成とその反応性(特に小分子を活性化できるかどうか)の解明に関する研究を行っています。これまでに、1つのシリルまたはホスフィン部位と3つのカルコゲノエーテル部位を持つ新規三脚型四座配位子1-4の合成に成功しており、現在これらの配位子を用いた金属錯体の合成とその反応性の解明について研究しています。

 また近年、石油資源の枯渇、二酸化炭素等の温室効果ガスによる地球温暖化が問題視されていますが、本研究はこれらの問題の解決にも多大な貢献ができるものと考えています。


 新規なPS3型三脚型四座配位子を有する10族金属錯体の合成

 近年,三脚型四座配位子を用いることにより,小分子の活性化などの特異な反応性を持つ遷移金属錯体が合成され,その化学に興味が持たれている。しかしながら,1つのホスフィン部位と3つのチオエーテル部位を持つPS3型三脚型四座配位子に関しては,研究例は少なく,その性質には未知の部分が多く残されている。
 本研究では,新規なPS3型三脚型四座配位子1a,bを合成し,そのニッケル(II),パラジウム(II),および白金(II)錯体の合成を検討した。
 硫黄原子上にi-Pr基を有する配位子1aを用いた場合には,対応する10族金属錯体2-5が得られた。X線結晶構造解析により結晶中では,ニッケル錯体2およびパラジウム錯体4は五配位三方両錐型構造を,白金錯体5は平面四配位構造を有していることが明らかになった。1)
 一方,硫黄原子上にt-Bu基を有する配位子1bを用いた場合には,t-Bu基の脱離が進行し,錯体6-8が得られた。2)

Figure

1) N. Takeda, Y. Tanaka, F. Sakakibara and M. Unno, Bull. Chem. Soc. Jpn., 83, 157-164 (2010).
2) N. Takeda, Y. Tanaka, R. Oma, F. Sakakibara and M. Unno, Bull. Chem. Soc. Jpn., in press.

 新規なSiS3型三脚型四座配位子とその遷移金属錯体の合成

 近年,ピンサー型シリル配位子を有する遷移金属錯体の合成やそれらを用いた触媒反応について盛んに研究が行われている。しかしながら,シリル部位を有する三脚型四座配位子に関しては,1つのシリル部位と3つのホスフィン部位を有するSiP3型配位子が数例報告されているものの,その他の配位子に関してはほとんど報告されていない。
 本研究では,1つのシリル部位と3つのチオエーテル部位を有するSiS3型三脚型四座配位子の前駆体であるヒドロシラン1を合成し,1と種々の遷移金属錯体との反応について検討を行った。その結果,対応するイリジウム(III)錯体2および白金(II)錯体3の合成に成功し,これらの構造を各種スペクトルおよびX線結晶構造解析により明らかにした。また,ヒドロシラン1と[PdCl2(PhCN)2]との反応においては,Si-C結合の切断反応が進行し,2核錯体4が得られることを明らかにした。

Figure

N. Takeda, D. Watanabe, T. Nakamura, and M. Unno, Organometallics, 29, 2839-2841 (2010).

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